新緑の季節におすすめ 東北を彩るネイチャースポット
雄大な山々と自然に恵まれた東北では、いくつもの偶然が重なって作り出された大自然の産物に出会うことができます。今回は、新緑の季節に巡りたい4つのネイチャースポットをご紹介します。
【青森県】奥入瀬渓流(おいらせけいりゅう)
奥入瀬渓流とは、緑に囲まれた北の景勝地として名高い十和田湖を水源とした、約14kmに渡って続く水の流れのこと。十和田湖から流れ出る唯一の水系です。
苔むした岩や倒木、木々が生い茂る鬱蒼とした森の中をかき分けて、滝や水しぶき、穏やかな清流へと姿を変え、上流から下流までの高低差200mを旅します。
その旅路はどこを切り取っても、苔と岩、水しぶきが織りなす渓流美の連続。ため息が出るほどの素晴らしさで訪れる者を神秘の世界に誘います。
奥入瀬渓流を代表する3つの渓流美
起点である十和田湖東岸の子ノ口(ねのくち)から終点の焼山(やけやま)までの14㎞の水の流れは、ダイナミックな滝が連続する上流部、水しぶきを上げる強い流れが続く中流部、ゆるやかに流れる下流部に分かれ、まさに撮影スポットの連続。
今回は、なかでも特に人気のある「銚子大滝」「阿修羅の流れ」「三乱の流れ」をご紹介。
時間のない方や体力に自信のない方は、バスを利用したり、渓流に並行して走る車道をドライブするのもおすすめです。
■銚子大滝(ちょうしおおたき)
本流にかかる唯一の滝で、幅20m、落差7mにもおよぶ奥入瀬渓流最大の滝。奥入瀬のシンボル的存在となっています。奥入瀬渓流を遡上し十和田湖に入ろうとする魚を拒む「魚止めの滝」とも呼ばれ、その豪快な姿に圧倒されます。
■阿修羅(あしゅら)の流れ
ポスターなどによく登場する奥入瀬渓流随一の景勝地。最も流れが激しく、苔むした岩の間を清流が幾重にも重なり、白いしぶきを上げて流れます。周囲の緑とのコントラストが素晴らしく、絶好の撮影スポットです。
■三乱(さみだれ)の流れ
焼山から最も近いビュースポット。三つの渓流が合流するため、豊富な水量を誇ります。点在する岩によって幾筋もの水流が作り出され、ダイナミックかつ美しい景色を見ることができます。春に咲くツツジの美しさでも有名です。
- 関連資料
- 解説付きマップをダウンロードする
奥入瀬渓流ならではの魅力とは?
なんといっても、歩く人と同じ目線で清流や滝を感じられること。奥入瀬渓流では洪水が起こることが少なく、渓流に沿って遊歩道が整備されたため、間近で渓流美を堪能することができます。
奥入瀬渓流の景観美を作りだしているコケも魅力の一つ。十和田湖が天然のダムの役割を果たし、安定した水量が供給されているため、渓流沿いの岩が水に浸食されず、美しいコケが育ちました。
奥入瀬渓流の魅力は、まさにこうした大自然の偶然によって生まれたといえるでしょう。
Column
奥入瀬渓流人気のアクティビティ「コケさんぽ」
915年に起きた噴火の影響を受けた奥入瀬に再び森が育まれたのは、コケのおかげ。岩だらけの大地にできたコケが、草木の成長に必要な土を作り、豊かな森を育みました。
4月中旬~11月上旬には、ネイチャーガイドと一緒に、苔のミクロの世界をのぞける「奥入瀬渓流コケさんぽ」が開催されています。
ルーペをのぞけば、奥入瀬渓流の誕生ストーリーが見えてくるはず。
【青森県・秋田県】白神山地(しらかみさんち)
青森と秋田の県境にまたがる白神山地。標高約1000メートルから1200メートルにおよぶ山岳地帯の総称で、広さは沖縄本島の面積を超える約13万ヘクタールに及びます。そのうち、世界自然遺産に登録されているのはブナ原生林が広がる中核部の約1万7000ヘクタール。これだけの広大な土地に伐採や植樹、林道建設が行われていない原生林が存在することは世界的にも大変貴重です。
老木が倒れると、開けた空間に太陽光が射し込み、落ち葉の中に小さな幼木が芽吹きます。こうした世代交代が約8000年もの間絶えず繰り返され、白神の森は受け継がれています。
多様な動植物が生息する神秘の森
白神山地が世界自然遺産に登録されたポイントの一つが生態系です。白神山地のブナ林は、原始性と動植物の多様性で世界的に見ても稀有な森林で、固有種、絶滅危惧種の生息地でもあります。生息数が少なく、1965年に国の天然記念物に指定された大型のキツツキ科の鳥「クマゲラ」は、白神山地のシンボル的な存在です。
トレッキングで世界遺産を肌で感じる
世界自然遺産の登録エリアは核心地域(コアゾーン)と緩衝地域(バッファゾーン)に分けられ、生態系保護のためコアゾーンの入山が制限される一方、バッファゾーンでは起伏の少ない初心者向けの遊歩道が整備されています。所要時間1~2時間程度のトレッキングコースが複数設定されており、散策を楽しみながら、ブナの巨木や神秘の湖沼など白神山地の魅力を存分に肌で感じることができます。新緑の5月~紅葉の10月頃までがトレッキングのベストシーズンです。
世界遺産で見られる奇跡のブルー「青池」(あおいけ)
白神山地の西部には33もの湖沼が点在する「十二湖」があります。その中でも、一際異彩を放つのが「青池」。
鮮やかに透き通ったコバルトブルーはまるで「青いインクを流したかのようだ」ともいわれ、天候や時刻・光の当たり具合・見る角度によって色々な青色に変化します。鳥のさえずりや森の空気を感じながら見る青池は、まさに絶景です。
Column
白神山地がよく分かる「白神山地ビジターセンター」
白神山地に足を踏み入れる前に立ち寄りたいのが、「白神山地ビジターセンター」。
白神山地の青森県側の玄関口にあたる西目屋村にあり、白神山地の四季の移り変わりが映像で見られたり、世界のブナや自然遺産、生態系について知ることができます。
白神山地に関する知識を得た上で散策に出かけると、一層楽しめることでしょう。
【福島県】五色沼自然探勝路(ごしきぬましぜんたんしょうろ)
猪苗代湖や吾妻連峰の絶景を見渡すことができ、日本百名山の一つにも数えられる磐梯山(ばんだいさん)。
磐梯山には、雄大な自然を満喫できるトレッキングコースが多数存在しており、比較的平坦で初心者でも気軽に楽しめるのが「五色沼自然探勝路」。総距離3.6㎞、所要時間は1時間10分程度で、磐梯山を代表する五色沼湖沼群のうちの8つの湖沼を巡ることのできる人気のコースです。
湖水の色は季節や天候、時間、見る角度によって繊細に変化します。この千変万化の美しさはいつ訪れても見飽きることがありません。
どうして沼によって色が異なるの?
五色沼は5つの沼という意味ではなく、様々な色彩が見られるということから「五色沼」と呼ばれています。エメラルドグリーン、コバルトブルー、ターコイズブルーと歩き進めるたびに異なる色彩を放ち、その不思議な様相はまるで「神秘の湖沼」。
天候や季節、時間帯、見る角度によっても様々な色彩を放つため、訪れる度に違った表情が見られます。沼によって異なる色をしているのは、水中に含まれる火山性の鉱物の違いや、水中植物、光の屈折率の変化などによるものといわれています。
五色沼はどのようにして生まれたの?
五色沼をはじめとした裏磐梯に存在する数百もの湖沼は、1888年に起きた磐梯山の噴火により形成されました。現在の美しい景観は、こうした大自然の威力のほか、植林活動などの先人の努力によって生まれました。
そのうちの数十の湖沼群が「五色沼湖沼群」と呼ばれています。
五色沼最大の沼 観光客の人気を集める毘沙門沼
五色沼入口バス停からスタートして、10分ほど歩くと目に飛び込んでくるのが、五色沼最大の沼「毘沙門沼(びしゃもんぬま)」。
真正面には美しい稜線を描く磐梯山がそびえ立ち、数ある五色沼湖沼群の中で最も素晴らしい景観が望める場所といわれています。ここでは、貸しボートで湖上散歩を楽しむことができ、景色を映し出すように澄み切った湖面を漕げるレンタルボートは、人気のアクティビティ。30分単位でレンタル可能です。
Column
毘沙門沼の伝説「ハートマークの鯉」
底が見えるほど透明度の高い湖水の中を悠然と泳ぐカラフルな鯉。その群れの中には、なんとからだに赤いハートがついた鯉が回遊しています。出会うと恋が成就するともいわれ、幸せを招く鯉として毘沙門沼の伝説となっています。貸しボートで、ぜひ見つけてみてください。
【新潟県】大野亀(おおのがめ)
佐渡の北端にある日本海に突き出た小さい「山」。「大野亀」と呼ばれる、まるで亀のような形をしたこの山は、実は巨大な“一枚岩”。トビシマカンゾウの群生地としても有名で、5月下旬~6月上旬の見ごろには、一面に広がる黄色い絨毯と空の青とのコントラストが圧巻です。
大野亀には遊歩道が整備されており、岩の頂上までは約30分ほどで気軽に登ることができます。
散策の途中には、二匹の亀がうずくまっているように見える2つの島「二ツ亀」も見ることができるほか、潮の満ち引きで景色が変わる日本海を楽しむことができます。大野亀周辺の海水の透明度は佐渡でも随一を誇ります。
頂上に辿り着くと、佐渡の北側の海岸「外海府(そとかいふ)」を一望できます。目の前に広がるのは、切り立った海岸と水平線。大自然のパノラマに圧倒されます。佐渡の中で最もダイナミックな景観と透明度の高い海、手つかずの大自然が残り、自然の力強さが感じられます。日本海に沈む夕日はずっと見ていても飽きない美しさです。
見渡す限りのオレンジ色 トビシマカンゾウの姿は圧巻
トビシマカンゾウは、佐渡以外では山形県の一部でしか見ることができない、ユリ科の黄色い花。
5月下旬から6月上旬にかけて見ごろを迎え、大野亀を黄色に埋め尽くします。黄色に染まった辺り一面と晴れ上がった青空のコントラストは、まさに絶景です。
佐渡では、トビシマカンゾウを「ヨーラメ」と呼びます。ヨーラメの「ヨー」は魚、「ラメ」は卵をはらむこと。「この花咲けば海活きかえり魚生きかえる」と言われ、地元の人々の手で大切に守られています。
Column
トビシマカンゾウを背景に 郷土芸能を堪能
佐渡には、歴史的な背景から、貴族文化や武家文化、町人文化といった様々な文化が流入し、多様な郷土芸能が栄えました。
カンゾウの見ごろの時期に合わせて開催される「佐渡カンゾウ祭り」では、黄色く咲いたカンゾウの絨毯を背景に、海府太鼓や佐渡民謡など数々の郷土芸能が楽しめます。
前夜祭では、カンゾウのライトアップや、かがり火に照らされた鬼太鼓(おんでこ)も披露され、日中とは異なる趣を堪能することができます。