多彩に開花!日本の麺文化と東北のご当地麺

日本の主食といえば、代表的なのはお米です。一方で、日本人はそばやうどん、ラーメンにパスタなどの麺類も大好き!それぞれの麺料理は海外に起源を持つといわれますが、日本に渡ると各地域の気候風土や文化に合わせて独自に発展、郷土色豊かなご当地麺が見事に花開きました


特に東北の各都市は、乾うどん・そばや中華麺、ラーメン(外食)などの年間支出額・購入数量が日本一を誇る一大麺消費エリアとして知られます。その数字を裏付けるように、各地域の特色を色濃く反映したご当地麺料理も驚くほどバラエティ豊か!


そこで今回は、東北を代表するご当地麺料理や地域の麺にまつわる習慣や文化をご紹介します。お椀に入った少量のそばを次から次へと平らげる岩手名物わんこそば、つやつやした光沢とつるりとした喉ごしが自慢の秋田名物稲庭うどん、そして長年消費量日本一を獲得する山形県のラーメン!東北の魅力あふれる食文化を知るには、まず一杯の麺料理を食べることからスタートしてみませんか?

あなたは何杯おかわりできる?岩手名物わんこそば

手元のお椀に入ったそばを食べると、給仕さんがそのお椀の中にそばを入れてくれ、満腹になるまで何杯もおかわりして食べるわんこそば。ルーツは諸説ありますが、そのひとつは花巻発祥説で江戸時代にまでさかのぼります。


南部藩主、南部利直公が花巻城(岩手県花巻市)に立ち寄られた際、郷土名産のそばを漆器のお椀で少量ずつ出したところ、利直公は大変気に入って何度もおかわりしたということです。岩手の方言で語尾に「コ」を付けることから、このお椀で提供されるそばは「お椀コそば→わんこそば」と呼ばれるようになったと伝えられています。


今日提供されているわんこそばは、その提供スタイルに地域性を垣間見ることができます。たとえば盛岡市では、給仕さんの「ハイ、じゃんじゃん!」「ハイ、どんどん!」の掛け声とともにリズミカルにそばを食べていく遊び心のあるスタイルですが、花巻市ではわんこそばはお殿様へのおもてなし料理だったため、掛け声はありません。また平泉・一関エリアでは、そばが盛られたお椀がお盆いっぱいに並べられ、それを自分のペースでゆっくり味わう「盛り出し式」が有名です。

 一般的なわんこそばは、熱いそばつゆにくぐらせた一口分のそばがお椀の中に入っていて、10~15杯で普通のそばの1杯分といわれています。ちなみにわんこそばを食べる平均杯数は、成人男性で50~60杯くらいとのこと。一口食べるたびに、そばが入っていたお椀が積み上がっていく様子を見るのも楽しみの一つです。またお店によってはそばに数種類の薬味や箸休めが付いているので、味を変えながらじゃんじゃんどんどん食べ進めていきましょう。給仕さんが付いている場合、手元のお椀にふたをすれば「ごちそうさま」の合図です。さあ、あなたは何杯のお椀を重ねられましたか?

お椀が積み上がるのが楽しくて、ついたくさん食べてしまうわんこそば。食べ終わると胃袋はパンパン、体も重い状態です。それならちょっと腹ごなしに、お店の外を散歩してみるのはいかがですか?


 おすすめなのは、岩手県の県庁所在地である盛岡市の街歩きです。盛岡市は、ニューヨーク・タイムズが発表した「2023年に行くべき52か所」で、ロンドンについて2番目に紹介された街です。市街地に蛇行して流れる川と橋から見える雄大な岩手山の景色が美しく、和洋折衷の様式美が漂う大正時代の建築物、歴史を感じさせる旅館があり、喫茶店や書店、ジャズ喫茶などの文化的拠点が根付いています。人口約30万人のコンパクトな街は、その独自で多彩な魅力から、大都市とは一線を画す"宝石的スポット"と評されています。

おすすめ散策ルートは、新幹線も発着するJR盛岡駅近くにあり、橋上から岩手山が見える「開運橋」と材木町近辺、町家に近代的建造物、レトロな喫茶店が混在する盛岡城跡公園近辺、南部鉄器の街路灯と石畳風の歩道に沿って寺院が建ち並ぶ寺町通り近辺など。喫茶店でのコーヒーブレイクを挟みながら、ゆっくり時間が過ぎていく盛岡の街歩きを楽しみましょう。

おいしさと美しさを兼ね備える稲庭うどん

 香川県の讃岐うどん、群馬県の水沢うどんとともに、日本三大うどんの一つとして名を馳せる秋田県の稲庭うどん。約350年前に秋田県湯沢市の稲庭地区で誕生したご当地うどんです。


 稲庭地区は半年間も雪が残る豪雪地帯で、その厳しい冬を乗りきるために古くから小麦を栽培し、保存食として活用してきました。そうした生活のなかで、同地区に住む佐藤市兵衛が地元産の小麦粉を使って干しうどんを製造したのが始まりといわれています。江戸時代から家内工業として受け継がれてきた製造方法が昭和に入って公開されると稲庭うどんの製造量は大幅に増え、秋田を代表する名産品に成長しました。


 製造量が増えたとはいえ、その製造方法は先人たちが築き守ってきた「手作業による職人技」と「手間をかけておいしさを磨くこと」を脈々と受け継いでいます。小麦粉と食塩水を練って平らに切り、丸めて、細めて、のばして、熟成して、乾燥して・・。はじめの工程から約4日後、すべて職人さんの手で丁寧にこしらえた稲庭うどんはようやく完成します。

 

稲庭うどんの魅力を存分に味わうために、まずは冷たいつけうどんで味わってみましょう。やや細めの平たい麺をつゆにつけて口にした瞬間、麺の上品な滑らかさにハッとさせられます。その後に歯から伝わる、見た目以上のしっかりとした強いコシ。そしてつるりとした極上の喉ごしが、稲庭うどんの真骨頂です。さらに、ゆでた麺を箸で持ち上げ光にかざしてみましょう。麺肌が透き通っているような、美しい乳白色を帯びていることが分かります。見た目にも楽しめる稲庭うどんは、磨き上げられた伝承の技が息づく一つの作品ともいえるでしょう。


 発祥地の湯沢市の製造工場では、稲庭うどんをより身近に感じられる見学コースを設けています。『佐藤養助商店』の工場では、機械を一切使わず職人の手から生み出される稲庭うどんの製造工程をガラス越しに見学することができます。

 湯沢市での工場見学の後は、せっかくなので市内での観光やお土産選びも楽しんでみましょう。市街地からバスでアクセスする小安峡に行けば、世界的に珍しい大噴湯を見学することができます。


小安峡は皆瀬川の急流によって約60mも浸食されたV字型の峡谷で、階段を下り遊歩道を歩くと、壁の亀裂から熱湯と蒸気が激しく噴出する箇所が間近に迫ります。蒸気や熱水が溜まる地熱貯留層の亀裂が露出する珍しい地形で、峡谷の上にかかる河原湯橋からも蒸気の噴出を見学することができます。

 またお土産には、湯沢の地で800年も歴史を紡いできた川連漆器がおすすめです。煙で燻して乾燥させた国産の木地を挽き、磨かず塗りのみで仕上げる「花塗り」を施すのが特徴で、その美しさと一生ものの堅牢さが魅力です。上品な光沢を放つ黒や朱のお椀で純白の稲庭うどんをいただく、そんな湯沢づくしのお土産が喜ばれそうです。

消費量日本一!山形のラーメンは百花繚乱

 日本の都道府県庁所在地・政令指定都市の中で、1世帯当たりのラーメン外食費が最も高いのは山形県山形市です(総務省「家計調査」による)。山形は、世界各地でブームを巻き起こすラーメンの“聖地”として全国にその名を轟かす存在なのです。


 山形がラーメン大国になったのには、いくつか理由があります。その一つが、ラーメン店のみならずそば屋でもラーメンを提供していること。一般的に、そば屋で提供するメニューはそばやうどんがメインですが、山形のそば屋の品書きには必ずといっていいほどラーメン(中華そば)があります。しかもそのレベルはどの店も高く、ラーメンの方が人気のそば屋も存在するほどです。そして2つめの理由が、ラーメンはおもてなし料理である、ということです。山形では、家に親戚やお客さんが遊びにくるとラーメンを出前で注文したり、そば屋やラーメン店に食べに行ったりする習慣があります。3つめに、暑い夏も麺やスープがひんやりした「冷たいラーメン」を提供することで消費量が落ちないことが理由に挙げられています。


その「冷たいラーメン」をはじめて提供したのが、山形市のそば屋『栄屋本店』です。お客さんの「そばのようにラーメンも冷たいのが食べてみたい」の声にヒントを得て、脂が固まらない冷たいスープとシャキッとコシのある麺で風味豊かに仕上げました。

そば屋から誕生した山形発祥のラーメンは、他にもあります。それが、そばに合う和風だしのスープに中華麺を入れ、味つけした鶏肉をトッピングした「鳥中華」です。もともとは天童市のそば屋『水車生そば』のまかない食でしたが、口コミでお客さんに提供する裏メニューとなり、いつの間にかたくさんの注文が入る大ヒット作となったそうです。

 この他にも山形県内には、個性豊かなご当地ラーメンが数多く存在します。たとえば、県南部の南陽市で提供されている「赤湯辛味噌ラーメン」。ラーメン店『赤湯ラーメン龍上海』のオリジナルメニューで、しょうゆラーメンがメインだった昭和30年代、札幌味噌ラーメンが有名になる10年以上前から味噌ラーメンを開発して提供していました。濃厚で深い旨みのあるスープに地元の唐辛子をふんだんに練り込んだ「からみそ」を溶かしながらいただくスタイルで、太ちぢれ麺との相性も抜群です。

 また日本海沿岸の酒田市には「酒田ラーメン」なるご当地ラーメンがあります。スープは港町らしく魚介だしが香るすっきりとした味わいで、スープとの絡みを考慮した高加水の中細ちぢれ麺がスタンダード。しかも、市内の約8割のラーメン提供店が自家製麺を使用しています。さらに酒田ラーメンになくてはならないのが、トッピングのワンタン。向こう側が透けて見えるほど皮が極薄で、ふんわりトロトロの食感が楽しめます。

 さらに県南部の米沢市には、鶏ガラと煮干しをだしに使った食べ飽きないしょうゆスープ、手もみの細ちぢれ麺が好相性の「米沢ラーメン」。北部の新庄市には鶏ガラベースのしょうゆスープに新鮮なモツ煮を浮かせた「とりもつラーメン」などがあります。地域の文化や郷土色を反映したご当地ラーメンを目当てに、国内外から多くのラーメンファンが山形に足を運んでいます。


 山形県内のラーメン旅の際、ぜひ一緒に足を運んでいただきたいのが温泉です。山形県は、全35市町村に温泉が湧く国内屈指の“温泉王国”なのです!湯治文化を今に伝える温泉郷や、大自然の中に佇む一軒宿の温泉など、日本情緒あふれる温泉がたくさんあります。

 山形市内で冷やしラーメンを満喫した後は、市内南東部にある蔵王温泉へ足を運んでみては。標高900mに湧く温泉で、泉質は強酸性の硫黄泉。きれいな青みを帯びた乳白色の湯に浸かれば、体は芯から温まり、肌をしっとりすべすべの質感に導きます。

南陽市の赤湯辛味噌ラーメンを提供する『赤湯ラーメン龍上海』本店の近くには、開湯930と長い歴史を持つ赤湯温泉が湧いています。赤湯温泉は、奥州街道の宿場町として栄えた面影が今なお残るノスタルジックな温泉郷です。お湯はとろりと柔らかく、あたたまりの湯として知られています。 

米沢市で米沢ラーメンを堪能したら、米沢の奥座敷といわれる小野川温泉を訪れてみましょう。小野川温泉は、すべてのお風呂が源泉100%掛け流しの日本でも稀有な温泉地です。中性なのに成分が豊富な温泉には化粧水にも使われるメタケイ酸が多く含まれており、“美肌の湯”として親しまれています。飲泉もできるので、温泉を浴びて飲んで、その効果を期待しましょう。

県内各地の温泉宿で宿泊してじっくり湯に浸かるもよし、気軽な日帰り入浴で温泉をハシゴするのもおすすめです。

“日本の麺の食べ方”を知ってご当地麺をおいしくいただく

 世界ではマナー違反とする地域もありますが、日本では麺(特にそば)を、音を立てて口に入れる食べ方があります。この食べ方が生まれた理由は諸説ありますが、空気と一緒に麺を吸い込んで食べると、口の中にそばの香りが広がって鼻に抜け、より一層そばの風味が味わえるから、という理にかなった説も挙げられています。


 食べ方のコツは、箸で少量の麺を取り、ツルツルとすするように一口で食べきるようにすること。見た目にもきれいに食べられ、麺とつゆ・スープの風味も存分に味わえます。

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