日本東北の夏を熱狂させる「青森ねぶた祭」
昔ながらの伝統や文化が今も息づいている東北地方では、夏になると、伝統ある祭りシーズンがピークを迎え、全国各地から多くの観光客がそれらを体感に訪れます。
その中でも一際盛り上がるのが、本州の北端に位置する青森で毎年8月に開催される「青森ねぶた祭」です。この祭りは東北を代表する三大祭りの一つで、1980年に国の重要無形民俗文化財に指定されました。毎年、国内外から約250万人が見物に訪れ、青森の夏をエネルギッシュに彩ります。
夜の闇に幻想的に浮かぶ「ねぶた」の迫力と美しさ、激しく打ち鳴らす太鼓の音、鋭い笛の音、そして観客も踊りだしたくなる元気なかけ声が、訪れた人の心を高ぶらせるのは間違いありません。今回はこの熱狂的な祭りの魅力をたっぷり紹介します。
1年がかりで制作する「ねぶた」
「青森ねぶた祭」は、奈良時代(710年~794年)に中国から伝わった星祭り・七夕の灯籠流しがはじまりともいわれ、「ねぶた」と呼ばれる、紙と針金でつくった大きな灯籠人形が祭りの主役となっています。
一方、「ねぶた」という言葉は「眠たし(ねむたし)」に由来するともいわれ、その昔、農作業をするときの睡魔を追い払うために行った「眠り流し」という行事が、いまの「青森ねぶた祭」の起源ともいわれています。
祭りに登場する「ねぶた」は毎年新たに制作されます。「ねぶた」を制作する人は、「ねぶた師」と呼ばれ、街の人々の誰もが知っており、多くの人から尊敬される存在です。
彼らを中心に、1年がかりで延べ約300人が関わり制作される「ねぶた」は、どれもアイディアに富んだデザインで、アートのような美しさも魅力的。武者や神話の名シーンをモチーフにしたものが多く、眉毛の一本一本に至るまで細かく表現されており、日本の伝統芸能・歌舞伎の役者のように、睨みのきいた表情も見どころ。
祭り本番で運行される大型ねぶたは大きいもので、幅9m、奥行き7m、高さ5mと、スケールが大きく、迫力たっぷりです。
前夜祭から見どころ満載
祭りは、JR青森駅近くの青い海公園に設営される、大型ねぶたの制作小屋「ねぶたラッセランド」で8月1日に開催する、前夜祭からスタートします。「ねぶた師」や「ミスねぶた」の紹介など、イベントが盛りだくさん。リズミカルな、ねぶた囃子の演奏会も楽しめますよ。
また、「ねぶたラッセランド」には、その年出場予定の大型ねぶたが勢ぞろいします。前夜祭の開会式の後からは、完成した作品に明かりが灯され、なんとも幻想的です。
なお、7月1日から8月6日までは、ねぶたの歴史や制作工程などをガイドするボランティアが常駐しているため、さらに「ねぶた」を深く知りたい方は、彼らに話を聴いてみるのもよいでしょう。無料で利用でき、所要時間は約30分。事前の予約をオススメします。
迫力ある「ねぶた」のパレードに身も心も委ねよ
祭りのメインは、夜間運行のある8月2日から6日までの5日間です。大きな花火の音を合図に、「ねぶた」のパレードが始まります。「ねぶた」はその美しさを競いながら、多くの曳き手(ひきて)によって道路の上を回ったり、深く沈んだり、滑るようにも動いたりします。大きく色鮮やかな「ねぶた」が躍動感たっぷりに、約2時間、街の大通りをパレードする様は、迫力満点で、その周囲を包み込みます。
「青森ねぶた祭」には、重要な3つの役回りがあるのをご存知でしょうか。
「ねぶた」本体とそれを曳く「ねぶた曳き」。太鼓、小さなシンバルのような鐘の手振り鉦(てぶりがね)、笛を使ってパレードを盛り上げる「囃子(はやし)」と呼ばれる音楽隊。そして、跳ねたり踊ったり叫んだりする「ハネト(跳人)」と呼ばれる踊り手です。
ドンドドンドンドンと体に響く太鼓の音と、ヒューヒューヒュールルルと鳴り響く笛の音、軽快にリズムを刻む手振り鉦が一体となって奏でられるメロディは、単調なものの、一度聞けば耳から離れず、クセになりますよ。
色とりどりの衣装を身にまとった「ハネト」たちは、「ラッセーラー!ラッセーラー!」という元気なかけ声とともに、飛び跳ね、賑やかに踊り、祭りを盛り上げます。
「ハネト」の踊りには心身にたまったものを発散させる意味もあり、見ている側も思わず踊り出したくなります!
そして、踊り出したくなった人に朗報です。「青森ねぶた祭」は、「ハネト」の衣装を着るというルールさえ守れば、誰でも参加ができるのです。衣装は祭りの会場近くで、有料でレンタルすることができます。こちらも事前予約がオススメです。
踊りはとても簡単で、「ラッセーラー!ラッセーラー!」の掛け声とともに一方の足で2回跳び、もう一方の足で2回跳びます。これを繰り返すだけなので、かなり自由に踊れるのも特徴です。
チャンスがあればぜひ、「ハネト」として祭りに参加することをオススメします。
クライマックスは花火との競演
夜間運行の最終日となる8月6日には、「ねぶた」「ハネト」「囃子」、それぞれのパートの総合評価により、最も優れた団体には「ねぶた大賞」が贈られます。
祭りのクライマックスとなる8月7日は、昼に大賞を含む入賞「ねぶた」などが街中をパレードした後、4団体のねぶたが大きな船に載せられます。夜になると船は青森港を出港し、陸奥湾の沖合を運行します。ここから花火大会が始まり、海上に浮かぶ「ねぶた」と夜空を彩る花火の、見事なコラボレーションを楽しむ中、祭りはいよいよフィナーレを迎えます。
翌日になると街は日常を取り戻し、受賞作などを除く「ねぶた」は解体され、また次の年に向けて「ねぶた師」たちはアイディアを練り出します。
一年中「ねぶた」を楽しめる施設も
ここまで読んで、いますぐにでも「ねぶた」を体感したいと思った方は、JR青森駅のすぐ近くにある「ねぶたの家 ワ・ラッセ」に駆け込むとよいでしょう。
「青森ねぶた祭」の歴史や魅力を余すことなく紹介するこの施設では、過去の祭りで大賞をとった「ねぶた」の展示や、祭りの際には見ることができない「ねぶた」人形の裏側、「ねぶた師」の中でも名人と呼ばれる人たちが作った特別な「ねぶた」などを見学することができますよ。
さらに、祭りの最中は、なかなか近寄れない「ねぶた」に近づいて、一緒に記念撮影をすることも!
伝統や文化を守り続けようとする街の人々の思いと、「ねぶた師」の情熱に支えられ、年々進化を続ける「青森ねぶた祭」を体感しに、ぜひ青森を訪れてみませんか
画像提供:(公社)青森観光コンベンション協会